エクセル職人による業務の人質化 〜「仕事ができるあの人」の不都合な真実〜
エクセル職人による業務の人質化 〜「仕事ができるあの人」の不都合な真実〜
どこの日本の伝統的な企業にも、必ず一人は「エクセルの神様」のような人がいます。
複雑に絡み合った複数シートからの集計、月末の面倒な請求書発行、謎のエラー表示……。他の社員がお手上げになるような作業でも、その人が自作した「マクロ付きの重たいエクセルファイル」のボタンをいくつか押せば、あっという間に綺麗な帳票が出力される。
上司は彼らを「我が部門で最も生産性が高い優秀な社員だ」と高く評価し、決して手放そうとはしません。
しかし、少し立ち止まって考えてみてください。 彼らは本当に「生産性が高い」のでしょうか? それとも、会社が引き留めざるを得ない状況(=人質)を意図的に作り出しているだけではないでしょうか。
「代替不可能性」と「生産性」のすり替え
結論から言えば、多くの企業で高く評価されているエクセル職人の正体は、業務をブラックボックス化し、会社を人質に取ることに成功した社員です。
Excelというソフトウェアは、「データ(保存)」「ロジック(計算・処理)」「UI(画面表示)」という、本来システムとして完全に分離されるべき3つの要素が1つのファイルに密結合してしまうという構造的な欠陥を抱えています。
エクセル職人はこの欠陥を最大限に利用します。 「自分しか解読できないVBAのスパゲッティコード」や「どこを参照しているか分からない複雑な関数」を組み合わせることで、「自分がいなければ明日からこの部署の業務が回らない」という完璧な防衛陣地(既得権益)を構築するのです。
これは、労働市場というゲームにおける個人の生存戦略としては非常に合理的です。誰でも回せる透明な仕組みを作ってしまえば、自分の価値が下がり、最悪リストラ候補になります。だからこそ彼らは、自分の仕事を他人が触れないブラックボックスに仕立て上げます。
会社は彼らの純粋な実力を評価して引き留めているのではなく、「この人が辞めたら月末の決算が締まらない」という恐怖から、高い評価を与えてご機嫌を取らざるを得ないのです。
職人同士のナッシュ均衡とDXの失敗
さらに厄介なのが、部署内に複数のエクセル職人が存在する場合です。
彼らはお互いの「聖域(自作エクセル)」には決して口出ししません。他人のマクロを不用意に触って壊せば責任問題になり、逆に自分のマクロを最適化されれば既得権益が脅かされるからです。
結果として、「お互いに縄張りを侵さず、非効率な手作業やコピペ作業を黙認し合う」という最悪のナッシュ均衡が成立します。
企業がいくらトップダウンで「DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するぞ!」と意気込んでも失敗するのはこのためです。彼らにとって業務の透明化は、自分の首を絞める行為に他ならないため、必ず全力でサボタージュ(妨害)してきます。
正面突破ではなく「迂回(バイパス)」せよ
では、このエクセル地獄から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。 既存のエクセル職人に「VBAを分かりやすく書き直してくれ」と頼むのは無意味です。また、彼らの残したスパゲッティコードを解読してメンテナンスしようとするのも、時間の無駄です。
正解は、Pythonを使って「迂回(バイパス)」することです。
- 密室からの解放: Excelの密室に閉じ込められたデータを、誰でも読める「CSV」として切り出す。
- ロジックの分離: 不安定なVBAではなく、Python(Pandasなど)で高速かつ正確にデータを集計・処理する。
- 属人化の排除: 誰が実行しても、同じ環境で同じ結果が出る自動化スクリプトにする。
本ブログ「TKG with Python」では、今後数回にわたり、この「エクセル職人が築き上げたブラックボックスを、PythonとCSVを用いて跡形もなく迂回・破壊する実践的なマニュアル」を公開していく予定です。
Excelの呪縛から解放され、真の生産性を取り戻したい方は、ぜひこれからの連載をチェックしてください。