【コラム】外資金融と一般企業、Excelファイルの「賞味期限」の決定的な違い
【コラム】外資金融と一般企業、Excelファイルの「賞味期限」の決定的な違い
外資系投資銀行のエリートたちが、マウスを一切使わずキーボードだけで瞬時に財務モデルを組み上げる「エクセル・モンキー」の逸話は有名です。彼らにとって、Excelは文字通り「巨万の富を生む錬金術の杖」として機能しています。
一方で、日本の一般企業でExcelを極めようとすると、属人化とブラックボックス化を引き起こし、組織の生産性を著しく低下させる「技術的負債」にしかなりません。
この決定的な違いはどこにあるのでしょうか。 それは、両者が扱うExcelファイルの「賞味期限」の違いにあります。
外資金融のExcelは「生鮮食品」
投資銀行が作成する財務モデリング(シミュレーター)の賞味期限は、数日から数週間です。 彼らの目的は、目の前のM&Aや資金調達のディール(取引)を成立させること。変数を1%いじった瞬間に企業価値のグラフが動く「プレゼン用の魔法の盤面」として、Excelの特性をフル活用します。
ディールが終われば、そのファイルは基本的にゴミ箱行きです。どんなに裏側の数式がスパゲッティ状態であろうと、その場限りの瞬間最大風速さえ出せれば、保守性や属人化など一切気にする必要がないのです。
一般企業のExcelは「保存食(インフラ)」
対して、一般企業がExcelで作ろうとしているのは、毎月の売上集計、顧客管理、在庫管理といった、数年から数十年にわたって組織を支え続ける「基幹システム」です。
長期保存と反復利用が前提である以上、本来であれば、データは堅牢な容器(データベース)に入れられ、誰でも安全に扱える処理ライン(プログラム)を通る必要があります。
しかし、一般企業は「賞味期限が数週間の生鮮食品用パック(Excel)」に、「何年も持たせたい重要な業務データ」を詰め込み、そのまま常温放置しています。その結果として、データが腐敗し(ファイルが壊れ)、異臭を放ち(謎のエラーが頻発し)始めるのは、構造上の必然です。
用途の間違いが悲劇を生む
Excelは、短期決戦のシミュレーションツールとしては世界最高のソフトウェアです。しかし、長期運用を前提とした「業務システム」や「データベース」として使うには、あまりにも賞味期限が短く、脆すぎます。
容器の用途を間違えている以上、どれだけエクセルの操作スキルを磨いても徒労に終わります。腐敗を防ぎ、組織の資産としてシステムを維持するには、データとロジックをExcelから切り離すしかありません。
大切な業務データは、賞味期限のない無機質な「CSV」という専用容器に移し替え、日々の処理は「Python」に任せる。これこそが、長期的な業務基盤を構築するための確実な迂回(バイパス)ルートなのです。